公務員給与は、民間との均衡を図るために人事院が勧告を行い、各都道府県の人事委員会がそれを踏まえて勧告し、行政によって最終決定されます。
この仕組みを見ると、「給与は制度で決まるのだから、労働組合がなくても問題はないのでは?」という疑問が生まれることがあります。
しかし、実際には 人事院勧告と労働組合は役割がまったく異なり、どちらが欠けても制度は十分に機能しません。
以下では、その理由を分かりやすくご紹介します。
人事院勧告は“平均値の調整”、現場の改善までは届かない
人事院が扱うのは、公務員全体の平均的な処遇や民間との均衡といった、大きな枠組みです。
しかし現場には、次のような具体的で切実な課題があります。
- 長時間労働
- 配置人数の不足
- 若手職員の生活の厳しさ
- 休暇が取りにくい職場環境
- 部活動やICT対応など、学校現場特有の負担
こうした問題は、制度上の“平均値”には表れにくく、人事院勧告では対応できません。
現場の声を集めて行政に届ける役割は、労働組合が担っています。
勧告は“実施されて初めて意味がある
その実施を後押しするのが労働組合
人事院や人事委員会が勧告をしても、実施するのは国会・県議会・行政です。
過去には、勧告が先延ばしにされたり、実施が見送られたケースもありました。
そのため、
「勧告通りに実施すべき」と行政に働きかける交渉主体が必要になります。それが労働組合です。
制度だけでは、自動的に職員の処遇が守られるわけではありません。
労働条件の改善は、勧告では扱われない領域が多い
たとえば、次のような改善は勧告の対象外です。
- ハラスメント対策
- 有休が取りやすい職場づくり
- 勤務時間管理の改善
- 学校の働き方改革
- 手当の見直し
- 補助員や支援スタッフの配置
これらはすべて、労働組合の要求や交渉によって前進してきたものです。
制度は平均的な枠組みを整えるだけであり、現場固有の問題の解決までは担えません。
人事院勧告の成り立ちそのものが「労働組合を前提」にしている
公務員はストライキなどの争議行為が法律で禁止されています。
その代わりに設けられたのが「人事院勧告制度」で、本来の労働基本権を制限した代償措置として位置づけられています。
つまり制度は、もともと「労働者の声を届ける主体(労働組合)が存在すること」を前提に設計されていると言えます。
とくに学校現場では、労働組合の役割がますます重要に
学校現場は今、制度が追いつかないほど変化・負担が大きくなっています。
- 児童生徒の多様化
- 保護者対応の増加
- ICT化による業務拡大
- 部活動の負担
- 長時間労働の慢性化
こうした学校特有の課題は、人事院勧告では扱われません。
現場の実情を行政に届け、改善を求める主体として、労働組合の存在意義はむしろ強まっています。
まとめ
人事院勧告は、公務員給与の公平性を保つために重要な仕組みですが、それだけでは現場の課題や職員の働きやすさを守ることはできません。
- 現場の声の集約
- 行政への交渉
- 勧告の確実な実施
- 職場環境の改善
- 教育現場の特殊性への対応
これらを担うのは、労働組合の大切な役割です。
制度と組合の両方があってこそ、公務に携わるすべての人の働く権利や環境が支えられています。
文責:安里 嗣頼(那覇支部執行委員)

コメント